4月21日(日)に日本読書療法学会第35回勉強会を開催しました。「読書へのアニマシオン こどもの読書の発達と癒し」をテーマに、黒木秀子先生を講師にお迎えしてお話しいただきました。

アニマシオンとはどのようなものか、その誕生した背景から、日本における普及活動の歴史について、まずはお話をいただきました。

「こどもを読み手にするには教育が必要である」という、アニマシオンの創始者マリア・モンセラット・サルトの考え方は、当初は理解を得られなかったそうです。こどもがかえって本嫌いになってしまう、そっと差し出すほうがいい、という批判があったと言います。

けれどもこどもが本を読まなくなっているという事実があり、それは「読めなくなっている」からではないかと考えたサルト氏は、読書という行為には読みたい心を育てる(動機の育成)だけでなく、読む力を育てる(能力の育成)が大切だと訴え、アニマシオンを提唱しました。

アニマシオンの詳細や具体的な作戦については、サルト氏の著作『読書へのアニマシオン─75の作戦』をご参照ください。

「幼児~ティーンまで指導者の下で定期的、継続的に『本で遊ぶ』アニマシオンを繰り返し体験することで読解力が育つことが期待できる」とされます。

「ティーンまで」というのは、高校卒業までと解釈されます。「繰り返し」の頻度は月1回が理想ですが、実際には日本では多い学校でも年に6回、一般的には1学期に1~2回とのことです。それでも先生方によると、その効果が実感できると言います。

ヨーロッパでは1クラス当たりの人数は20名程度ですが、日本の場合は40名程度のため、規模に合わせた調整が必要になります。また、スペインでは入手できるけれども日本語には翻訳されていないものだと活用できない、といったテキスト探しの難しさにも言及されました。

お話に続いて、実際に参加者でアニマシオンを体験しました。最初にやったのは、「ここだよ」という作戦(遊び)です。使用した本は『あたごの浦』

まずは黒木先生が本を読み上げ、参加者は一緒にページをめくっていきます。読み終えると、今度は作中に登場する「鯛さん」や「お月さん」、「松」などが描かれた紙人形をとっていきます。そして、2度目にお話を聞くときには、たとえば自分の紙人形が「お月さん」なら、「お月さん」と言う名前が聞こえたら紙人形を挙げて、「ここだよ」と言うのです。こうすることで読書のはじめの一歩である「聞く」という体験をし、聞くことを意識づけていきます。

自分が登場人物として関わることで、本の世界が「自分事」になるのを感じました。

次に体験したのは、「前かな? 後ろかな?」という作戦(遊び)です。使用した本は『くまさぶろう』

まずは黒木先生が読み上げた後に、カードを配っていきます。カードは裏返してあり、順番に参加者に選んでもらいます。全員が選び終えたところで各自のカードを一斉に表に返すと、そこには作品の中の文章が書かれています。それを順番に読み上げて、お話の順番通りに並び替えるのです。

まず1人目が読んだら、2人目の人が自分のカードと比べて、順番が前か後ろかを判断します。もし自分のほうが前だと思ったら、並んでいる位置を入れ替わります。そうやって全員の位置が定まったところで、もう一回本を読んで確認するというものです。

長い小説を読むと順番がわからなくなることがあるので、このような遊びを積み重ねることで、出来事の順番を把握できるようにしていきます。今回は絵本を使いましたが、小学校高学年や中学生ではボリュームのある物語や小説を使い、短い段落を抜粋してカードに抜き書きして並び替えをします。

いずれの作戦(遊び)も、みなさんとても楽しそうに参加しておられました。「『読書へのアニマシオン─75の作戦』を読んだだけだとわからなかったけれども、実際にやってみてやっとわかった」という方もいらっしゃいました。

アニマシオンの75の作戦の中には、ヨーロッパ流の文学教育がベースになっているため、日本の教育との違いから、できないものが結構あるそうです。日本でできるものを紹介した本には、『子どもと楽しく遊ぼう読書へのアニマシオン』みんなで楽しむ読書へのアニマシオン』があります。

アニマシオンの成功は、遊びのやり方以上に、本にかかっていると言います。力のある本ならうまくいくので、良い本を探すこと。それは主観ではなく、たとえばロングセラーのものや複数の公共図書館のおすすめリストに載っているものから探してみるのが良いとのことです。

体験の後は、質疑応答のお時間でした。「アニマシオンについて来られない子、参加したい子ができないときにどうするのか」という質問も出ました。ヨーロッパと日本では教育文化が違うので、予読が必要なのにやってきていないと、スペインでは「読んでないの? それなら外に出ていなさい。あなたは参加できません」となるそうです。日本では「わからなくても、一緒にいなさい」と言って先生がフォローするため、手がかかりすぎて、手が回らなくなってしまうという違いがあります。

他にも、「オンラインでアニマシオンをやるにはどうすればいいのか」「OECDでの点数が取れることを目的とした教育なのではないか」など、いろいろなご質問やご意見が出たほか、一斉授業から「一斉に揃わなくて当たり前」を前提とした授業への変化、タブレットやオーディオブックの活用など、様々な話題が出て活発な勉強会になりました。

終了後は、会場でお菓子をいただきながらの情報交換や交流のお時間でした。

ここでも、黒木先生から『揃わない前提の授業とクラス』『「個別最適な学びと協働的な学び」を考える』『それで、いい!』『不機嫌な英語たち』『ゆうぐれ』『チャンス』など、関連する書籍を多くご紹介いただきました。

黒木秀子先生、ご参加のみなさま、そしてお手伝いくださったみなさま、ありがとうございました。

(会場のパウルームに拙訳書を並べてくださっていました。ありがとうございます。)